「縋」という漢字を見て、すぐに読み方が浮かぶ方はどれくらいいるでしょうか。糸へんに「追う」と書くこの漢字は、日常的な読み書きの場面ではあまり登場しませんが、「縋る(すがる)」という言葉を通じて多くの方になじみのある字のひとつです。
「藁にも縋る思い」「神仏に縋る」「過去に縋る」など、「縋る」という言葉は日本語の中に深く根付いており、頼りにすがりつく切実な心情を表す表現として幅広い場面で使われています。しかし、「縋」という漢字そのものの成り立ちや読み方・使われ方を詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。
本記事では、「縋」の意味・部首・画数といった基本情報から、音読み・訓読み、字源、苗字や熟語・地名への使われ方まで、幅広く丁寧に解説します。「縋」という漢字への理解をぜひ本記事で深めてください。
もくじ
糸へんに追う「縋」の漢字の意味とは?
縋
「縋」は、「ひもや綱などにつかまってぶら下がる・すがりつく・頼りにしてしがみつく」という意味を持つ漢字です。もともとは綱や縄にしっかりとつかまって体を支える・よじ登るという物理的な動作を表す字でしたが、転じて人や物事に頼りすがるという精神的・心理的な意味でも広く使われるようになりました。
「縋る(すがる)」という動詞はその代表的な用法で、「命綱に縋る」「親の権威に縋る」「希望に縋る」のように、何かにしがみついて支えを求めるという切実な行為や心情を表します。頼る・すがりつくという意味合いには、藁にも縋るような必死さや切迫感が伴うことが多く、日本語の中でも感情的な表現力の強い言葉のひとつです。
「縋」の意味を整理すると以下のようになります。
- 綱・ひもなどにつかまってぶら下がる・よじ登る(物理的な意味)
- 人・物事に頼りすがる・しがみつく(精神的・比喩的な意味)
- 切実に助けや支えを求める様子を表す
「縋」は物理的な動作から精神的な依存・懇願まで幅広い意味を持つ漢字であり、日本語の感情表現の豊かさを示す字のひとつといえます。
糸へんに追う「縋」|部首・画数・常用漢字(漢検目安)など基本情報
「縋」の基本的な情報を整理しておきましょう。部首・画数・漢検レベルといった基礎情報を把握することが、漢字を正確に理解するうえでの第一歩です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 漢字 | 縋 |
| 部首 | 糸(いとへん) |
| 総画数 | 16画 |
| 常用漢字 | 常用漢字外 |
| 漢検目安 | 1級 |
| Unicode | U+7E0B |
部首は「糸(いとへん)」で、糸・縄・布・繊維に関わる漢字に広く使われる部首です。「縄・紐・綱・絡・繋」など、糸や縄に関する動作・状態を表す漢字の多くがこの部首を持ちます。「縋」においても、綱や縄につかまってすがりつくという原義が糸へんに反映されており、字形から意味が直感的に伝わってきます。
総画数は16画とやや多く、常用漢字には含まれておらず、漢検では1級相当とされる難読漢字のひとつです。一般的な漢字学習の範囲を超えた字ですが、「縋る(すがる)」という言葉の漢字表記として知っておくと、文章表現の幅が広がります。
糸へんに追う「縋」の漢字読み方|音読み
「縋」の音読みは「スイ」「ツイ」です。いずれも中国語の発音に由来する読み方ですが、現代日本語の日常会話や一般的な文章の中でこれらの音読みが使われる機会は極めて少ないのが実情です。
「スイ」という読みは古典的・文語的な文脈に限られており、単独で使われることはほとんどありません。「ツイ」という読みも同様で、現代語での使用例は非常に限られています。
「縋」の読み方としては、後述する訓読みの「すがる」が圧倒的に一般的であり、音読みは参考知識として把握しておく程度で実用上は十分といえます。漢字の成り立ちを理解するうえでは「スイ・ツイ」という音読みの存在を知っておくと役立ちますが、日常的な使用では訓読みを中心に覚えておくことをおすすめします。
糸へんに追う「縋」の漢字読み方|訓読み
「縋」の訓読みは「すが(る)」です。「すがる」は日本語として広く定着しており、もっとも一般的かつ実用的な読み方です。
「縋る(すがる)」は、綱や人・物事にしっかりとしがみついて支えや助けを求める動作・心情を表す動詞です。「藁にも縋る(わらにもすがる)」という慣用表現は特に有名で、切羽詰まった状況でどんな頼りないものにでもしがみついて助けを求めるという、人間の切実な心理を表す言葉として広く知られています。
「縋る」はひらがなで書かれることも多いですが、「縋る」と漢字表記することで文章に引き締まった印象を与え、その切実さや必死さがより鮮明に伝わります。小説・詩・随筆などの文学的表現の中では漢字表記が選ばれることが多く、感情の深みを表現するうえで力のある言葉といえます。
糸へんに追う「縋」の成り立ち(字源)|糸+追でなぜこの意味になる?
「縋」の成り立ちを理解するには、「糸(いとへん)」と「追」それぞれの意味と役割を確認することが重要です。
糸(いとへん)の意味
「糸(いとへん)」は糸・縄・紐・布など繊維に関わる漢字に使われる部首です。「縄・紐・綱・絡・繋・結」など、糸や縄を使った動作・状態を表す多くの漢字がこの部首を持ちます。「縋」においては、綱や縄につかまってすがりつくという物理的な動作の核となる道具(糸・縄)を表す意符として機能しており、字の意味の根幹を支えています。
「追」の意味と役割
「追」は「おう・追いかける・後から従う」を意味する漢字です。「縋」における「追」の役割については、音符としての役割と意味的な役割の両方が考えられます。
音符としては「追(スイ・ツイ)」の発音を「縋」に引き継がせる役割を担っており、これが音読み「スイ・ツイ」の由来となっています。意味的には、「後から追いすがる・必死について行く・離れまいとしがみつく」という「追」のイメージが「縋る」という動作と深く重なっています。綱に縋りつく様子も、人の後を追いかけてしがみつく様子も、離れまいと必死につかまるという点で共通しており、「糸(縄)」+「追(追いすがる)」の組み合わせが「縋る」という意味を生み出したと解釈できます。
物理的な動作と心理的な切実さの両方を一字に凝縮した「縋」は、漢字の構成要素が意味と見事に対応している好例のひとつといえます。成り立ちを知ることで、「縋る」という言葉の持つ深みがいっそう感じられるようになるでしょう。
糸へんに追う「縋」が使われる苗字と読み方
「縋」を含む苗字は日本では極めて珍しく、一般的な苗字としての使用例はほとんど確認されていません。常用漢字外であり漢検1級相当の難読漢字であることから、戸籍上の苗字への使用も非常に限られています。
「縋」が苗字にほとんど使われない背景には、この漢字が常用漢字外であること、そして「すがりつく・しがみつく」という意味合いが苗字としてのイメージに結びつきにくいことが考えられます。「縋」は苗字・名前への使用よりも、動詞「縋る(すがる)」としての用法が中心の漢字であり、文学・詩歌・日常表現の中でその真価が発揮される字です。
同様に、人名(名)としての使用例も現代ではほぼ見られません。難読であることと意味的なイメージから、名付けに用いられることはきわめてまれであり、現時点では苗字・名前ともに使用例が非常に限られた漢字といえます。
糸へんに追う「縋」を使う熟語・言葉と読み方
「縋」を含む熟語は多くはありませんが、日本語の中で感情表現として重要な役割を担う言葉が存在します。代表的なものの意味と読み方を確認しておきましょう。
日常・文学でよく使われる言葉
| 熟語・言葉 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 縋る | すがる | 綱・人・物事などにしがみつき頼りにする |
| 縋りつく | すがりつく | 強くしがみついて離れない・必死に頼りにする |
| 縋り泣く | すがりなく | 人にすがりつきながら泣く・縋りながら涙を流す |
| 藁にも縋る | わらにもすがる | 切羽詰まってどんな頼りないものにでもすがろうとする |
| 縋り下がる | すがりさがる | 綱などにつかまってぶら下がる・しがみついてぶら下がる |
| 過去に縋る | かこにすがる | 過去の栄光・経験に頼りすがって前に進めない様子 |
「藁にも縋る(わらにもすがる)」は日本語の慣用表現の中でも特に広く知られた言葉で、「藁にも縋る思い」「藁にも縋るような気持ちで」のように使われます。追い詰められた状況・絶望的な局面での切実な心理を的確に表す表現として、小説・ドラマ・日常会話など幅広い場面で登場します。
「縋りつく(すがりつく)」は「縋る」よりもさらに強く・必死にしがみつくニュアンスを持つ言葉で、「母親に縋りつく子ども」「命綱に縋りつく登山者」のように、物理的・感情的両方の切実さを表現する際に使われます。文学・映画・日常語として定着しており、感情を豊かに表現するうえで欠かせない語彙のひとつです。
糸へんに追う「縋」を含む地名・用語と読み方
「縋」を含む地名は日本国内では非常に珍しく、固有の地名としての使用例はほとんど確認されていません。常用漢字外であり画数も多い難読漢字であるため、地名としての定着が進まなかったことが背景として考えられます。
地名や施設名への使用例が少ない一方で、「縋る」という言葉は文学・宗教・心理・日常表現の中で今も重要な役割を担っています。特に宗教的な文脈では「神仏に縋る」「御加護に縋る」のように、信仰や祈りの場面で使われることが多く、人が困難や苦難に直面したときに頼りにするものへの切実な思いを表す言葉として深く根付いています。
また文学・詩歌の世界では、「縋る」という言葉が人間の弱さ・切実さ・愛情の深さを表現するキーワードとして多くの作家・詩人に愛用されてきました。「縋」という漢字は地名や熟語としての使用こそ限られているものの、「すがる」という一語が持つ感情的な表現力の豊かさによって、日本語の中に確固たる地位を築いている漢字といえます。難読ではありますが、その字形と意味の関係を知ることで、日本語表現の奥深さをあらためて感じることができる字のひとつです。
