「萱」という漢字は、草かんむりに「宣」と書く、やや難しい部類の漢字です。日常会話ではあまり目にしない字ですが、人名や植物の名称、古典的な表現の中に静かに生き続けています。
「萱」は「カヤ(茅)」と呼ばれる草を表す漢字で、古来より屋根葺きの材料として日本人の生活に深く関わってきた植物です。また「母」を意味する雅語としても用いられており、詩的で情緒豊かなニュアンスを持つ字でもあります。
本記事では、「萱」の基本情報から成り立ち、使われる苗字・熟語・地名まで、わかりやすく解説します。「萱」という漢字の奥深い世界を一緒にひもといていきましょう。
もくじ
草かんむりに宣「萱」の漢字の意味とは?|部首・画数・常用漢字(漢検目安)など基本情報
「萱」は「カヤ(茅・萱)」と呼ばれるイネ科・カヤツリグサ科などに属する草本植物の総称を指す漢字です。日本では古くから屋根の葺き材として使われており、「萱葺き屋根(かやぶきやね)」という言葉でもなじみがあります。穂が風にそよぐ野原の風景は、日本の原風景のひとつとも言えるでしょう。
また、「萱」には「母」を意味する用法もあります。これは中国の古典に由来するもので、母親の居室に萱草(かんぞう)を植えると心配事を忘れられるという言い伝えから「萱堂(けんどう)」=母の居室、ひいては母そのものを指す雅語として定着しました。
基本情報をまとめると以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 部首 | 艸・艹(くさかんむり) |
| 総画数 | 15画 |
| 常用漢字 | 常用漢字外 |
| 漢検目安 | 準1級 |
| 人名用漢字 | 人名用漢字に含まれる(名前に使用可) |
| Unicode | U+8431 |
常用漢字ではありませんが、人名用漢字として認められているため、子どもの名前に使用することができます。自然の草木を連想させる柔らかなイメージと、母を意味する温かさから、女性の名前を中心に一定の人気があります。
草かんむりに宣「萱」の漢字読み方|音読み
「萱」の音読みは「ケン(けん)」です。漢音では「ケン」と読まれます。中国語(普通話)では「xuān(シュアン)」と発音され、植物名や人名として現代でも広く使われています。
日本語においての音読み「ケン」は、主に熟語の中で使われます。たとえば「萱堂(けんどう)」「萱草(けんそう)」といった言葉がその代表例です。日常会話ではあまり音読みで単独に使われることはなく、古典的・文語的な熟語や表現の中で「ケン」という読みが生きています。
また、「萱」と同音・類音の漢字には「建」「健」「賢」などがありますが、「萱」はそれらとは異なる植物・自然の清らかなイメージを持っており、音の響きと意味のギャップが却って個性的な魅力となっています。
草かんむりに宣「萱」の漢字読み方|訓読み
「萱」の訓読みは「かや」です。「かや」はイネ科・カヤツリグサ科などの草の総称で、日本の原野や水辺に自生する植物を指します。古くから建築資材や燃料として利用されてきた、日本人の生活に身近な植物です。
また、「萱」は「かん」と読まれることもあります。「萱草(かんぞう)」という植物名がその代表例で、ユリ科の多年草を指します。オレンジ色の花を咲かせるこの植物は観賞用・食用ともに親しまれており、漢方薬としての利用歴史も持ちます。
人名における「萱」の読み方の例を挙げると以下のとおりです。
- かや(訓読みそのまま)
- かん(萱草に由来する読み)
- けん(音読みそのまま)
- のぶ(「宣」の読みに由来する場合)
名前としては「かや」という読みが最も多く使われており、女性らしい柔らかな響きとして人気があります。自然の草原をイメージさせる清らかな音感が、名付けに選ばれる大きな理由のひとつです。
草かんむりに宣「萱」の成り立ち(字源)|艹+宣でなぜこの意味になる?
「萱」は、部首である「艹(くさかんむり)」と「宣(のぶる・せん)」の組み合わせからなる形声文字です。形声文字とは、意味を担う部分(意符)と音を担う部分(音符)から構成される漢字であり、「萱」もそのルールに従って作られています。
「艹(くさかんむり)」が意味を担う部分
草かんむり(艹)は、植物・草に関連する意味を持つ意符です。「萱」が植物の一種である「カヤ」を表す字であることを示しています。草かんむりを持つ漢字には「花」「葉」「草」「茎」など、植物に関係する字が数多く存在しており、「萱」もその仲間として植物を表す字であることが一目でわかります。
「宣」が音を担う部分
「宣(せん・けん)」は音符として機能しており、「萱」の読み「ケン」に近い音を提供しています。「宣」自体には「広く告げる・のべる」という意味がありますが、「萱」においてはその意味は直接受け継がれず、あくまで音を示す役割を担っています。形声文字の構造上、音符の意味が必ずしも合成後の漢字の意味に影響するわけではない点が重要です。
つまり「萱」は、「草(植物)」を意味する草かんむりと、「ケン」という音を示す「宣」が組み合わさって、「カヤという植物」を表す字として成立しました。字の形から意味と音の両方を読み解けるのが、形声文字の面白さです。
草かんむりに宣「萱」が使われる苗字と読み方
「萱」を含む苗字は決して多くはありませんが、日本各地にいくつかの苗字として存在しています。自然の植物に由来する字らしく、土地や地形と結びついた苗字に見られる傾向があります。
「萱」を含む主な苗字と読み方
| 苗字 | 読み方 |
|---|---|
| 萱野 | かやの・かやの |
| 萱場 | かやば |
| 萱島 | かやしま |
| 萱原 | かやはら |
| 萱沼 | かやぬま |
| 萱田 | かやだ・かやた |
これらの苗字に共通するのは、「かや(萱)が生い茂る土地・場所」を意味する地名由来の苗字であるという点です。日本では古来、植物が豊かに育つ場所の名前が苗字として定着するケースが多く、「萱野」「萱場」「萱原」などはまさにその典型です。
名前(下の名前)としての「萱」も、「かや」「けん」「のぶ」などの読みで使われます。女性の名前では「萱」一字で「かや」と読ませるシンプルな名前が人気で、和の趣と自然の清らかさを感じさせる名前として、根強く選ばれ続けています。
草かんむりに宣「萱」を使う熟語・言葉と読み方
「萱」を含む熟語は、植物としての「カヤ」に関連するものと、「母」を意味する雅語的な用法の二系統に大きく分けられます。いずれも古典的・文語的な表現であり、格調ある言葉の世界に属しています。
主な熟語一覧
| 熟語 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 萱草 | かんぞう・けんそう | ユリ科の多年草。橙色の花を咲かせる。古来「忘れ草」とも呼ばれた。 |
| 萱堂 | けんどう | 母親の居室。転じて、母・母親のこと。 |
| 萱葺き | かやぶき | カヤを材料として屋根を葺くこと。またその屋根。 |
| 萱野 | かやの | カヤが生い茂る野原。日本の原風景を表す言葉。 |
| 忘れ萱 | わすれかや | 萱草(かんぞう)の別名。悲しみを忘れさせる草の意。 |
特に「萱堂(けんどう)」は母親・母の居室を意味する格調高い雅語として、手紙や挨拶文などで用いられることがあります。「御萱堂様(おけんどうさま)」という表現で相手の母親への敬称として使われる場合もあり、現代でも改まった文章の中に息づいています。
また「萱草(かんぞう)」は「忘れ草」という別名を持ち、古来より悲しみや憂いを忘れさせる不思議な草として詩歌に詠まれてきました。万葉集にも萱草を詠んだ歌が収録されており、日本の文学・文化と深く結びついた植物であることがわかります。
草かんむりに宣「萱」を含む地名・用語と読み方
「萱」を含む地名は日本各地に点在しており、かつてカヤが生い茂っていた土地の名残として地名の中に残っています。自然の植生を由来とする地名は日本全国に多く、「萱」もその一例として各地の地名に刻まれています。
「萱」を含む地名の例
| 地名 | 読み方 | 所在地(目安) |
|---|---|---|
| 萱島 | かやしま | 大阪府寝屋川市(萱島駅で有名) |
| 萱野 | かやの | 大阪府箕面市ほか全国各地 |
| 萱場 | かやば | 東京都中央区茅場町(「茅」表記が多いが「萱」と同義)ほか |
| 萱田 | かやだ | 千葉県八千代市 |
大阪府寝屋川市の「萱島(かやしま)」は、京阪電車萱島駅の構内に大きなクスノキが立つことで有名な地名です。地域の人々に親しまれるこの駅は、地名に宿る自然への敬意を感じさせるスポットとして知られています。
また、地名としての「萱」は「茅(かや)」と混用されることも多く、両者は植物学的にも重なる部分があるため、歴史的な地名では表記が揺れているケースも見られます。「萱」という字が地名に残ることは、その土地にかつてカヤが豊かに生育していた歴史の証でもあります。自然と人の暮らしの交わりを今に伝える、味わい深い漢字のひとつと言えるでしょう。

