草かんむりに時「蒔」の読み方・苗字や熟語【漢字辞典】

」という漢字を見たとき、「蒔く(まく)」という言葉を思い浮かべる方も多いでしょう。草かんむりに「時」と書くこの漢字は、農業や園芸に親しみのある方にはなじみ深く、また日本の伝統工芸「蒔絵(まきえ)」を通じて知っている方も少なくないはずです。

「種を蒔く」「蒔いた種は自分で刈り取れ」など、種まきを表す言葉は日本語の中に深く根付いており、比喩表現としても広く使われています。しかし、「蒔」の成り立ちや正確な読み方、熟語としての使われ方まで詳しく知っている方は意外と少ないかもしれません。

本記事では、「蒔」の意味・部首・画数といった基本情報から、音読み・訓読み、字源、苗字や熟語・地名への使われ方まで、幅広く丁寧に解説します。「蒔」という漢字への理解をぜひ本記事で深めてください。

草かんむりに時「蒔」の漢字の意味とは?

「蒔」は、「種をまく・植物を移し植える」という意味を持つ漢字です。田畑や庭に種を散らして育てる「種まき」の動作を表す字として、農業・園芸の場面で古くから使われてきました。

「蒔く(まく)」という動詞は、種・肥料・砂などを広い範囲に散らす動作全般を指します。農業においては「種を蒔く」が基本的な使い方ですが、転じて「将来のために準備をする・布石を打つ」という比喩的な意味でも広く使われます。「蒔いた種は自分で刈り取れ」「苦労の種を蒔く」などの慣用的な表現にもこの字が登場します。

また「蒔」には、植えた苗を別の場所に移し替える「移植する」という意味も含まれており、単に種をまくだけでなく植物の世話全般に関わる動作を表す幅広い意味を持ちます。「蒔」の意味を整理すると以下のようになります。

  • 種・苗などを田畑や土地にまく・植える(例:種を蒔く・蒔き直す)
  • 将来のための準備・布石という比喩的な意味(例:苦労の種を蒔く)
  • 植物を移し植える・育てる

日本の伝統工芸「蒔絵(まきえ)」にもこの字が使われており、漆器の表面に金粉・銀粉などを蒔きつけて文様を描く技法を指します。農業の「種まき」と同じく「散らして付ける」という動作から、この工芸技法にも「蒔」の字が当てられました。

草かんむりに時「蒔」|部首・画数・常用漢字(漢検目安)など基本情報

「蒔」の基本的な情報を整理しておきましょう。部首・画数・漢検レベルといった基礎情報を把握することが、漢字を正確に理解するうえでの第一歩です。

項目内容
漢字
部首艹(草かんむり)
総画数13画
常用漢字常用漢字外(人名用漢字)
漢検目安準1級
UnicodeU+8494

部首は「艹(草かんむり)」で、植物・草木に関わる漢字に広く使われる部首です。「花・草・葉・茎・蔓」など、植物の名前や植物に関連する動作を表す漢字の多くがこの部首を持ちます。「蒔」においても、草かんむりが「これは植物に関わる漢字である」ということを明確に示しています。

総画数は13画で、常用漢字には含まれていませんが人名用漢字として認められており、漢検では準1級相当とされています。日常の読み書きで頻繁に登場する字ではありませんが、「蒔絵」「種蒔き」などの語を通じて一般的な認知度はある程度高い漢字です。

草かんむりに時「蒔」の漢字読み方|音読み

「蒔」の音読みは「シ」「ジ」の二つです。いずれも中国語の発音に由来する読み方で、主に熟語や固有の表現の中で使われます。

「シ」という読みは、古典的な漢文や詩文の中で「蒔」が植物を植える・種をまくという意味で使われる際に見られます。ただし、現代日本語の日常会話や一般的な文章の中で「シ」という音読みが単独で使われる機会はほとんどありません。

「ジ」という読みも同様に、単独で使われることは少なく、主に専門的・古典的な文脈に限られます。「蒔」の読み方としては、後述する訓読みの「まく」「うえる」のほうが圧倒的に一般的であり、音読みは参考知識として覚えておく程度で実用上は十分といえます。名前での使用では「シ」と読まれることもあります。

草かんむりに時「蒔」の漢字読み方|訓読み

「蒔」の訓読みは「ま(く)」「う(える)」です。「まく」はもっとも一般的な読み方で、種や肥料などを広い範囲に散らす動作を表します。「うえる」は植物を土に植えつける動作を指します。

「蒔く(まく)」は日常語として広く定着しており、「種を蒔く」「肥料を蒔く」といった農業・園芸の場面はもちろん、「苦労の種を蒔く」「トラブルの火種を蒔く」のように、原因や結果を比喩的に表す表現にも多用されます。

また「蒔き直す(まきなおす)」という表現も使われることがあります。これは「一度失敗したことを仕切り直してやり直す」という意味で使われる表現で、農業の種まきのイメージが転じて「人生や仕事を再出発させる」という前向きなニュアンスで使われることが多い言葉です。訓読みを通じて「蒔」という字が日本語の中にいかに深く根付いているかが伝わります。

草かんむりに時「蒔」の成り立ち(字源)|艹+時でなぜこの意味になる?

「蒔」の成り立ちを理解するには、「艹(草かんむり)」と「時」それぞれの意味と役割を確認することが重要です。

艹(草かんむり)の意味

「艹(草かんむり)」は植物・草木全般に関わる漢字に使われる部首です。「花・茎・葉・蔓・苗」など、植物の部位や植物に関する動作を表す漢字の多くがこの部首を持ちます。「蒔」においては、草かんむりが「植物に関わる行為を表す漢字である」ことを示す意符として機能しており、種まきや植え付けという農業行為との結びつきを明確にしています。

「時」の意味と役割

「時」は「とき・時間・季節・時機」を意味する漢字です。「蒔」における「時」の役割については二つの解釈があります。

ひとつは音符としての役割で、「時(シ・ジ)」の発音を「蒔」に引き継がせるために使われているという解釈です。もうひとつは意符としての役割で、「種まきには適切な時季・時機がある」という農業の本質的な知恵を「時」という字に込めたという解釈です。種まきは春など特定の季節・時機を選んで行う農作業であり、「草(植物)」+「時(適切な時機)」=「時機を見計らって植物の種をまく」という意味が「蒔」に込められていると考えると、字の成り立ちが非常に合理的に理解できます。

農業において「いつ種をまくか」は収穫の成否を左右する最重要事項のひとつです。「蒔」という字には、植物と時間・時機の深い関係が字形そのものに刻まれているといえるでしょう。成り立ちを知ることで、この漢字への理解と親しみがぐっと深まります。

草かんむりに時「蒔」が使われる苗字と読み方

「蒔」は人名用漢字として認められているため、苗字や名前に使用することができます。実際に「蒔」を含む苗字はいくつか存在しており、農業や自然と深く結びついた土地の歴史を感じさせる苗字が多い傾向があります。

「蒔」を含む代表的な苗字

苗字読み方
蒔田まきた・まいた
蒔絵まきえ
蒔苗まきなえ・まいなえ
蒔山まきやま
蒔野まきの

「蒔田(まきた)」は「蒔」を含む苗字の中でも比較的知られた例で、種をまいて耕した田んぼに由来する農業地名がそのまま苗字になったものと考えられます。日本の苗字には農業・地形・自然環境に由来するものが多く、「蒔」を含む苗字もその典型的な例のひとつです。

名前(名)としては「蒔(まき)」という一字名や、「蒔子(まきこ)」「蒔絵(まきえ)」のように使われる例が見られます。「種をまくように可能性を広げてほしい・豊かに育ってほしい」という願いを込めた名付けの漢字として、女性の名前に使われることが多い字です。

草かんむりに時「蒔」を使う熟語・言葉と読み方

「蒔」を含む熟語や言葉は、農業・工芸・日常表現にわたって存在します。代表的なものの意味と読み方を確認しておきましょう。

日常・文化でよく使われる言葉

熟語・言葉読み方意味
蒔絵まきえ漆器の表面に金粉・銀粉を蒔いて文様を描く日本の伝統工芸
種蒔きたねまき田畑に種をまくこと・転じて将来への準備
蒔き直しまきなおし失敗を仕切り直して再出発すること
蒔き時まきどき種をまくのに適した時季・適切な時機
春蒔きはるまき春に種をまくこと・春まきの農作業
秋蒔きあきまき秋に種をまくこと・秋まきの農作業

「蒔絵(まきえ)」は日本が世界に誇る伝統工芸のひとつで、漆器の世界では最高峰の技法として知られています。金粉・銀粉・色粉などを漆の上に蒔きつけて美しい文様を描くこの技法は、平安時代から続く長い歴史を持ち、国内外の美術館・博物館に貴重な作品が収蔵されています。「蒔」という字の意味が工芸技法の名前にそのまま生かされた好例です。

「種蒔き(たねまき)」は農業用語としての使い方にとどまらず、「将来への投資・準備」という比喩表現としても非常によく使われます。「営業活動は種蒔きだ」「人脈づくりという種蒔きが大切」のように、ビジネス・教育・人間関係など幅広い文脈で活躍する言葉です。

草かんむりに時「蒔」を含む地名・用語と読み方

「蒔」を含む地名は日本各地に存在しており、農業が盛んであった土地や、種まきに適した豊かな農地を持つ地域に多く見られます。地名に「蒔」が使われていることで、その土地の農業史や自然環境を今に伝える役割も果たしています。

「蒔」を含む主な地名

地名読み方所在地・備考
蒔田まいた・まきた神奈川県横浜市南区。蒔田公園・蒔田駅で知られる
蒔絵台まきえだい住宅地名などに使われる例
蒔苗まいなえ東北地方などに見られる地名・苗字

神奈川県横浜市南区の「蒔田(まいた)」は、「蒔」を含む地名の中でも特によく知られた例のひとつです。横浜市営地下鉄の蒔田駅があり、蒔田公園とともに地域の中心として親しまれています。歴史的には農業地帯であったこの土地の名前が、現代も都市の地名として生き続けています。

また、「蒔絵」は地名としての使用こそ限られているものの、日本の伝統工芸を代表する用語として国際的にも「Makie」として認知されており、文化・観光・美術の分野で広く使われる重要な語です。「蒔」という漢字は農業から工芸、地名から人名まで、日本の文化と歴史の多様な側面に深く関わっている、奥深い漢字といえます。