「蔦」という漢字は、草かんむりに「鳥」と書く、植物と鳥が組み合わさった個性的な漢字です。日常生活でも比較的目にする機会があり、人名や地名、そして身近な植物の名前として広く親しまれている字のひとつです。
「蔦」は「ツタ」という植物を意味する漢字で、岩壁や建物の外壁をつたいながら広がる蔓性植物を指します。秋になると葉が鮮やかな紅色に染まる姿が美しく、日本の秋の風物詩として古来より詩歌や絵画に描かれてきた植物です。
本記事では、「蔦」の基本情報から成り立ち、使われる苗字・熟語・地名まで、わかりやすく解説します。「蔦」という漢字が持つ風雅で情緒豊かな世界をぜひひもといてみてください。
もくじ
草かんむりに鳥「蔦」の意味とは?|部首・画数・常用漢字(漢検目安)など基本情報
「蔦」は、「ツタ(蔦)」と呼ばれるブドウ科の蔓性落葉木本植物を表す漢字です。ツタは壁面・岩壁・樹木などに吸盤状の付着根で貼り付きながら茎を伸ばし、広範囲を覆い尽くす生命力旺盛な植物です。春から夏にかけては鮮やかな緑の葉を茂らせ、秋には深紅・朱色・橙色に紅葉する姿が特に美しく、日本の秋の情景を彩る植物として古くから詩歌・絵画・家紋に登場してきました。
「蔦」はまた、江戸時代の出版文化を代表する老舗書店「蔦屋(つたや)」の屋号としても有名で、現代では「蔦屋書店(TSUTAYA)」という形で広く知られています。このように「蔦」は植物の名称としてだけでなく、日本の商業・文化の歴史とも深く結びついている漢字です。
基本情報をまとめると以下のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 部首 | 艸・艹(くさかんむり) |
| 総画数 | 15画 |
| 常用漢字 | 常用漢字外 |
| 漢検目安 | 準1級 |
| 人名用漢字 | 人名用漢字に含まれる(名前に使用可) |
| Unicode | U+8564 |
常用漢字ではありませんが、人名用漢字として認定されているため、子どもの名前に使用することができます。生命力の強さと秋の紅葉の美しさを兼ね備えたイメージから、名前に風雅さと力強さを与える字として親しまれています。
草かんむりに鳥「蔦」の漢字読み方|音読み
「蔦」の音読みは「チョウ(ちょう)」です。漢音では「チョウ」と読みます。中国語(普通話)では「niǎo(ニャオ)」と発音されますが、これは音符である「鳥」の中国語読みに対応しています。
日本語における「チョウ」という音読みは、日常的な熟語の中ではほとんど使われません。「蔦」の音読みが使われる場面は非常に限られており、植物学的な専門文書や古典的な文脈に限られる読み方です。一般的な日本語の会話・文章では訓読みの「つた」が圧倒的に多く使われます。
「チョウ」という音は「鳥」「蝶」「帳」など多くの漢字と共通する音であり、字形に含まれる「鳥」からその読みが来ていることが一目でわかります。形声文字の音符「鳥」がそのまま「蔦」の音読みの源泉となっているという点で、字源と音読みが直結したわかりやすい例のひとつです。
草かんむりに鳥「蔦」の漢字読み方|訓読み
「蔦」の訓読みは「つた」です。「つた」はブドウ科の蔓性植物ツタを指す和語であり、「蔦」という漢字の中で最もなじみ深い読み方です。現代日本語においては音読みよりも訓読みの「つた」が圧倒的に一般的であり、植物名・人名・地名・屋号など幅広い場面でこの読みが使われています。
「つた」という言葉の語源については諸説あり、「つたう(伝う)」という動詞に由来するという説が有力です。壁や岩をつたいながら広がるツタの生態が、そのまま植物の名前となったと考えられており、植物の特性と名前の意味が自然に結びついた和語と言えます。
人名における「蔦」の読み方の例を挙げると以下のとおりです。
- つた(訓読みそのまま・最も一般的)
- つた(女性名・苗字に多い)
- ちょう(音読みそのまま・稀な用例)
- かずら(蔓植物全般を指す古語的読み)
人名では「つた」という読みが最も多く使われており、女性の名前や苗字の中に広く見られます。秋の紅葉の美しさと、どこまでもつたい伸びる生命力という二つのイメージが、名前に込める意味として魅力的に映ることが人気の理由です。
草かんむりに鳥「蔦」の成り立ち(字源)|艹+鳥でなぜこの意味になる?
「蔦」は、部首である「艹(くさかんむり)」と「鳥(とり・ちょう)」の組み合わせからなる形声文字です。形声文字とは、意味を表す意符と音を表す音符から構成される漢字であり、「蔦」もこの原則に従って作られています。
「艹(くさかんむり)」が意味を担う部分
草かんむり(艹)は、植物・草に関連する意味を持つ意符です。「蔦」が植物の一種であるツタを表す字であることを示しています。草かんむりを持つ漢字には「花」「茎」「葉」「草」「茶」「萱」「芦」など植物全般に関わる字が数多く存在しており、「蔦」もその仲間として植物を表す字であることが字形から一目でわかります。蔓性植物であるツタの特性を草かんむりが意味の面から支えています。
「鳥」が音を担う部分
「鳥(とり・ちょう)」は音符として機能しており、「蔦」の音読み「チョウ」を提供しています。「鳥」自体には「とり・鳥類」という意味がありますが、「蔦」においてはその意味は直接引き継がれず、「チョウ」という音を示す役割を担っています。ただし、ツタの蔓が鳥の足のように岩や壁に引っかかりながら広がる様子を「鳥」のイメージに重ねたという解釈もあり、音符の字形が植物の特性と視覚的に対応しているという興味深い側面もあります。
「草かんむり(植物)+鳥(音符)」という組み合わせは一見不思議に思えますが、形声文字の構造上、音符の「鳥」はあくまで読み方「チョウ」を示すための部品であり、「蔦=ツタという植物」という意味は草かんむりが一手に担っています。字の成り立ちを知ることで、漢字の構造への理解がより深まります。
草かんむりに鳥「蔦」が使われる苗字と読み方
「蔦」を含む苗字は日本各地に見られ、植物のツタに関連する地名由来のものや、家紋に「蔦」を用いる家系に由来するものが存在しています。特に西日本を中心に分布が見られます。
「蔦」を含む主な苗字と読み方
| 苗字 | 読み方 |
|---|---|
| 蔦 | つた |
| 蔦田 | つただ・つたた |
| 蔦川 | つたかわ |
| 蔦木 | つたき・つたぎ |
| 蔦谷 | つたや・つたたに |
| 蔦屋 | つたや |
| 蔦原 | つたはら・つたわら |
苗字としての「蔦」の中で特に有名なのが「蔦屋(つたや)」という屋号・苗字です。江戸時代の版元(出版業者)「蔦屋重三郎(つたやじゅうざぶろう)」は、喜多川歌麿や東洲斎写楽の浮世絵を世に送り出した文化人として知られており、「蔦」という字が日本の出版・文化史と深く結びついていることを示す代表例です。
また人名(下の名前)としての「蔦」は、「蔦子(つたこ)」「蔦江(つたえ)」「蔦乃(つたの)」など女性の名前に使われる例が多く、秋の紅葉のように美しく、力強くしなやかに伸びるツタのイメージが名前に込められています。古風で情緒ある響きが、今も名付けに選ばれる理由のひとつです。
草かんむりに鳥「蔦」を使う熟語・言葉と読み方
「蔦」を含む熟語は、植物としてのツタに関わるものを中心に、日本の自然・文化・歴史と深く結びついた語彙が揃っています。家紋・屋号・植物名としての用例も豊富で、「蔦」という字が日本の生活文化に幅広く根ざしていることがわかります。
主な熟語・言葉一覧
| 熟語・言葉 | 読み方 | 意味 |
|---|---|---|
| 蔦蔓 | つたかずら | ツタの蔓。また蔓性植物全般を指す言葉としても使われる。 |
| 蔦紅葉 | つたもみじ | 秋に紅葉したツタの葉。日本の秋の情景を代表する風物詩のひとつ。 |
| 蔦の家紋 | つたのかもん | ツタをモチーフにした家紋の総称。「蔦紋」とも呼ばれ、多くの家系で使用された。 |
| 常盤蔦 | ときわづた | ウコギ科の常緑蔓性植物。一年中緑の葉を保つツタの一種。 |
| 蔦屋 | つたや | ツタをあしらった屋号・店名。江戸時代の版元・蔦屋重三郎の名でも有名。 |
| 蔦絡まる | つたからまる | ツタが壁や木にからみつく様子。建物の外観を飾る景観としても親しまれる。 |
特に「蔦紅葉(つたもみじ)」は日本の秋を象徴する美しい言葉で、和歌・俳句・随筆の中に数多く登場します。壁一面を覆うツタが深紅・朱色・橙色に染まる秋の情景は、日本人の美意識と深く共鳴しており、今も多くの人の心を惹きつける風景です。古くは「百人一首」にも蔦を詠んだ歌が収録されており、日本の文学史における「蔦」の存在感の大きさがわかります。
また「蔦の家紋(蔦紋)」は日本の家紋の中でも広く使われたデザインのひとつで、ツタの葉・蔓を図案化したものが多くの武家・公家・庶民の家紋として用いられました。特に「丸に蔦」「蔦菱」などの蔦紋は今も広く使われており、「蔦」という植物が日本の紋章文化に深く刻まれていることを示しています。
草かんむりに鳥「蔦」を含む地名・用語と読み方
「蔦」を含む地名は日本各地に点在しており、ツタが自生していた土地や、蔦紋にゆかりのある家・地域に由来するものが各地に残っています。また文化・商業の分野でも「蔦」を含む施設名・屋号が広く知られています。
「蔦」を含む主な地名・施設名の例
| 地名・施設名 | 読み方 | 所在地・概要 |
|---|---|---|
| 蔦温泉 | つたおんせん | 青森県十和田市。ブナの原生林に囲まれた秘湯として知られる名湯。 |
| 蔦沼 | つたぬま | 青森県十和田市。蔦温泉周辺に点在する沼群の総称。紅葉の名所として有名。 |
| 蔦木宿 | つたきじゅく | 長野県諏訪郡富士見町。江戸時代の甲州街道の宿場町として知られる地名。 |
| 蔦屋書店 | つたやしょてん | 全国展開する書店・レンタル・カルチャーの複合施設。「TSUTAYA」の正式名称。 |
| 蔦町 | つたまち・つたちょう | 全国各地に存在する町名。ツタの自生や蔦紋ゆかりの地名として残るものが多い。 |
青森県十和田市の「蔦沼(つたぬま)」は、秋の紅葉シーズンに水面に映り込む紅葉の絶景で全国的に知られる観光スポットです。ブナの原生林に囲まれた神秘的な沼群が織りなす紅葉の景観は、日本を代表する秋の絶景のひとつとして多くの観光客を集めており、「蔦」という字が持つ紅葉のイメージを体現する場所として広く親しまれています。
また「蔦屋書店(TSUTAYA)」は現代日本を代表する書店・カルチャー施設チェーンとして全国に店舗を展開しており、その名前の由来は江戸時代の版元「蔦屋重三郎」へのオマージュとされています。江戸時代から現代まで、「蔦」という字が出版・文化・知識の象徴として受け継がれてきたことは、この漢字が持つ文化的な深みと日本の歴史との結びつきを如実に物語っています。

